『たゆたえども沈まず』を読んだ感想【ゴッホが題材のアート小説】
先週、原田マハさんの「サロメ」を読んだ勢いでポチった一冊です。
小説でありながら、美術史を読んでいるかのような参考文献の多さで、
読み応えたっぷりでした。
感想
まるで自分がパリにいるかのような、そんな感覚になりました。
また面白いだけでなく、浮世絵や印象派、ゴッホに関する知識が得られる作品でした。
浮世絵が印象派の画家や、ゴッホに影響を与えていたという描写があり、日本人としてはうれしく思いましたね。
加納重吉という、架空の人物視点で物語がすすんでいくのですが、師匠である林忠正がとにかくかっこいい。
異国のパリでフランス語を巧みに扱い、堂々とフランス人と渡り合う姿が魅力的でした。
林忠正は実在する人物のようですので、思わず調べてみたくなりました。
日本人である加納重吉視点で物語がすすんでいくので、
感情移入しやすく、パリに行ったらこんな風景を見てみたいな、と読みながら思いました。
タイトルにもなっている「たゆたえども沈まず」は、
物語にも何度も出てくるので印象的です。
たゆたえども沈まずの意味
どれだけ揺れ動いても、沈まなければまた復活できる。
という、パリの標語です。
作中でも何度もこの言葉が登場します。
たゆたえども沈まず。
パリは、いかなる苦境に追い込まれようと、たゆたいこそすれ、決して沈まない。
まるで、セーヌの中心に浮かんでいるシテ島のように。
どんなときであれ、何度でも、流れに逆らわず、激流に身を委ね、決して沈まず、やがて立ち上がる。そんな街。それこそが、パリなのだ。
この言葉はパリのいろいろなところに標示されているそうです。
ヒステリックなゴッホに冷や冷や
作中のゴッホは弟泣かせで、更にヒステリックでやきもきしました。
絵が売れないためお金がなく、弟のテオから援助を受けて生活しますが、
その援助資金は酒代に使い、画材道具の代金は払わず、
それを責められると逆切れします。
逆切れしてテオの家を出ていったことがありますが、
テオは責めたことを後悔して、兄のゴッホを探しにいきます。
こんな優しい弟に支えられて、ゴッホはたくさんの作品を生み出したんですね。
また、画家であるゴーギャンとの口論の末に、自身の耳を切り落としたというエピソードもあるみたいです。
※事実らしい
当時、ゴッホの絵が世間から評価を受けなかったのは、
市民の感性がゴッホの特徴的な絵に追いついていなかったのが一因のようです。
印象に残った言葉
自分で価値を見出すことはせず、むしろ他人が価値を認めたものを容認する、それが日本人の特性だ。だから、フランスなりイギリスなりアメリカなり、日本以外の国で認められた芸術を、彼らは歓迎するのだ。
読みながら、ドキッとしました。
美術館に行ったときに、
あの人がいいって言っているから、きっとこれは良いんだろう。とか、
人の感想を気にしてしまうことが少なからずあったので...
この本を書いた原田マハさんについて
1962(昭和37)年、東京都小平市生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。その後2005(平成17)年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。2012年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞、ベストセラーに。2016年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。その他の作品に『本日は、お日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『風神雷神』などがある。
ニューヨーク近代美術館で働かれていたという、
芸術に対する豊富な知識がある原田マハさんだからこそ、
芸術の知識がなくとも親しみやすいアート小説を書けるのかなと思います。
美術館に行って、「星月夜」「ダンギー爺さん」「ひまわり」の絵を観てみたい気持ちになりました。